大型栽培施設の管理運営を担う20代の若きリーダーが挑む、1年中真っ赤なイチゴが実る村づくり

福島県の浜通りに位置し、阿武隈高地の豊かな自然に囲まれた美しい川内村。中山間地域特有の昼夜の寒暖差が、野菜や果実、お米などの作物を美味しく育てます。村の基幹産業となっている農業の「活性化」と「担い手育成」に力を注ぐ川内村では、完全閉鎖型植物工場の整備、エゴマ栽培の推進と搾油施設の整備、生食用・ワイン用ブドウの栽培、ワイン醸造・貯蔵施設の整備などの「新しい農業への取組」を意欲的に進めています。2020年、村内では前例の無い大規模ハウスでの通年型イチゴ栽培に乗り出しました。施設の管理運営を担う、20代の若きリーダーの奮闘とサポートする役場の支援制度を紹介します。

目次

29歳の若きリーダーが育てる村の新しい魅力「よつぼし」

川内村の新たな特産品として2020年9月に定植されたイチゴの品種「よつぼし」が、同年12月30日に待望の初出荷を迎えました。真っ赤に成熟した川内村育ちの「よつぼし」は村内の商業施設のほか、関東地域へも流通しています。酸味が少なく甘さが際立つと評判も上々です。

川内村が整備したイチゴ栽培施設の管理運営を担う『株式会社農(みのり)福島支店 農業生産部』遠藤元一(えんどう・げんいち:29歳)部長は「予定よりも収穫が遅れたため、不安しかなかったです」と、初出荷を終えた当時の気持ちを振り返ります。

若くして『株式会社農(みのり)福島支店』の管理運営を担う遠藤元一部長

栽培が始まったばかりで収量はまだ多くはありませんが、年間収量30tを目標に通年で出荷できるように周年栽培システムを採用。現在はスタッフ4人体制で、およそ4,000㎡のイチゴハウスを管理運営しています。定植や収穫の繁忙期には近隣の方がパート従業員として雇用されており、イチゴの産地化と併せて雇用の場としても期待されています。

若くして施設の管理運営と、栽培の責任を担う遠藤さんの重責がコメントからも伺えます。そんな若きリーダーの取組と、それをサポートする川内村の支援制度を合わせて紹介します。

東日本大震災がなければ別の人生を歩んでいました

祖父が農業従事者だったこともあり農業は身近な存在でしたが、もともとは公務員志望だったという遠藤さんの人生を大きく変えたのは、大学2年生の時に経験した東日本大震災です。「生まれ育った川内村の農業は『この先どうなるんだろう』という不安が芽生え、『どうなるか分からないなら、どうにかしなければ』と思ったことがきっかけです」と、遠藤さんは農業の道を志したきっかけを話してくれました。

大学卒業後、6次産業化に取り組む生産法人にアルバイトとして入社し、遠藤さんは本格的に就農への第一歩を踏み出します。1年間農業に従事した遠藤さんは将来を見据え、完全閉鎖型植物工場を運営する農業生産法人に就職しました。

「農業復興が現在ほど進んでいない当時、放射能の問題があったことから、安全で安心な作物を作るためには完全閉鎖型の植物工場しかないと思いました」。

総事業費2億円をかけて整備した天窓開閉式の12連棟ハウス。約3万株の「よつぼし」の栽培管理をしています

4年間、レタスの水耕栽培やイチゴの栽培について学ぶ中で、遠藤さんの心にイチゴ農家として独立自営就農したいという思いが芽生え始めます。「イチゴは販売しやすいということ、そしてハウス栽培に適する品目のため収量も多く、中山間地の川内村でも経営拡大がしやすいという点に魅力と可能性を感じました」と、遠藤さんは話します。

独立自営就農に向けて動き始めた遠藤さんは埼玉県の農業生産法人で半年間、冬イチゴの栽培技術を学びます。研修が終わり、独立自営就農に向けた相談のために訪れた川内村役場で、千葉県に本社を置く『株式会社農』の川内村進出の情報提供があり、独立自営就農ではなく雇用就農を勧められます。

新規就農者の確保が課題となっている昨今の農業界にとって、新規就農者の増加は村にとっては喜ばしいこと。当時、なぜ遠藤さんの独立自営就農に反対されたのか、相談を受けた『川内村 産業振興課 農政係』の遠藤一美(えんどう・かつみ)係長に話を伺いました。

「独立自営就農の意欲が強かったので、きっと反対された本人はモヤモヤした気持ちだったと思います。ですが、大事な担い手ですからとにかく失敗して欲しくなかったんです」と遠藤係長は話します。

(左)『川内村 産業振興課 農政係』の遠藤一美係長。担い手の人生と真摯に向き合って親身にアドバイスをしています

「イチゴ農家として就農するには、施設などの設備投資など数千万円の借入をすることになります。20代で多額の借金を背負い、1人で栽培から流通までを行ってリスクを背負うよりも、今まで学んだ知識や技術と経験を生かして栽培に専念できる環境への雇用就農を提案しました」と遠藤係長は大切な担い手への思いを話してくれました。

遠藤さんは悩んだ末に、『株式会社農』への就職を決意。2020年4月の入社後、宮城県の農業生産法人で夏イチゴの栽培技術も学び、通年でイチゴ栽培を行える知識と技術を習得しました。同年9月には、川内村が総事業費2億円をかけて整備した天窓開閉式の12連棟ハウスが完成し、川内村で初となるイチゴの周年栽培の礎が出来上がりました。初年度となる2020年には約3万株の「よつぼし」を定植。栽培プランターには、冬場は温水、夏場は冷水を流し株元の温度管理できる設備を導入したので、冬のハウス内の暖房費だけでも少なくとも50%以上削減できているそうです。

冬場は温水、夏場は冷水を流し株元の温度を管理することで生育を良くするだけでなく、冬のハウス内の暖房費の削減に貢献しています

「雇用就農は自己資金が不要なだけでなく、1人ではなくチームで働けることも大きなメリットです。収入面でも、毎月固定給が支払われるため、従業員の方は安定した生活を送れます」と、遠藤さんは話します。20代という若さで生産部長を任せられ、現場責任者としてのプレッシャーはありますが、日々イチゴとじっくり向き合える環境に満足しているといいます。

『株式会社農』で待望の初出荷を迎えた「よつぼし」

努力が結果に直結するから農業はやめられない

「4〜5年前に購入したイチゴの大辞典が愛読書です」と笑う遠藤さん。川内村にはイチゴ栽培の先輩がいないため、自分で調べ学び、試行錯誤の日々を過ごしています。
「学んだことを実践すれば、作物は必ず応えてくれます。大辞典を手放せない毎日ですが、農業は勉強し実践した分だけ結果で返ってくる楽しさがあり、頑張りがいのある仕事です」と遠藤さんは農業のやりがいを教えてくれました。

今後は、イチゴの収量3割アップを目指しながら、春にはブロッコリーの露地栽培も始める予定とのこと。将来はスタッフを増員し規模を拡大、そしてイチゴ農家を目指す新たな担い手の相談相手として若手の育成にも関わっていきたいと展望を話してくれました。

「農業は勉強した分だけ結果で返ってくるので頑張りがいがあります」と農業のやりがいを話してくれた遠藤部長

どんな小さなことでも気軽に相談してほしい

東日本大震災による福島第一原子力発電所事故の影響で、川内村の農業環境は大きく変化しました。「震災後、川内村の特産品は増えています」と、川内村役場の遠藤係長はいいます。村の農業を再生するため、この10年、村ではさまざまな取組の結果、トルコギキョウやリンドウなどの花き、エゴマ、「あづましず」くや「シャインマスカット」などの生食用ブドウなど、新たな特産品が誕生しました。また、川内村では震災後、3つの農業法人が誕生し、さらに2021年度はワイン醸造・貯蔵施設と野菜カット工場の稼働を予定しています。

給水システムについて説明をする遠藤部長。制御されたシステムによりパイプを通してタンク内の肥料を散布します

新たな特産品、生産法人の設立と同時に「就農・雇用就農支援制度」も拡充しています。新規参入者、Uターン就農者、農業後継者に対する支援制度として「新規就農者支援事業助成金」を、新たに新規就農者を雇用する農業経営体に対する支援制度として「川内村新規就農者雇用育成事業補助金」を支給しています。農業の担い手の確保・育成を行う農業経営体を同時にサポートする、より強い制度を整備し農業の活性化を進めています。

川内村の就農・雇用就農支援制度 ※支給条件等お気軽にお問い合わせください

「イチゴに続く新たな特産品や雇用の場も増えていきます。栽培作物や独立就農・雇用就農の選択肢が増えることで、就農スタイルの幅も広がっています。作付品目や就農スタイル、支援制度など、どんなことでも気軽に役場に相談して欲しいです」と遠藤係長は話します。

「就農スタイルの幅は広がっているので、どんなことでも気軽に相談して欲しいです」と話す遠藤係長

就農希望者と農業経営体のニーズに対し、役場がきめ細やかなサポートを提供することで、川内村の農業は再生から活性化へと着実に歩みを進めています。

新規就農に関心のある方は、親身になって相談に乗ってくれる川内村役場にぜひ相談されてみてはいかがでしょうか?

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〒979-1292
福島県双葉郡川内村大字上川内字早渡11-24

福島県川内村役場 産業振興課 農政係
Tel:0240-38-2112


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過去掲載記事:【福島県川内村】自然と文化が融合した村、ワイン産地への夢も。移住・就農者への支援も充実
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