歴史と自然環境が育んだ福島県葛尾村の畜産業。市場評価が高い牛が育つそのワケとは
福島県にある葛尾村をご存知ですか?浜通りの中部に位置し、阿武隈山系の自然豊かな山々に囲まれた小さな村です。東京電力福島第一原発事故から間もなく10年。全村避難を経て2016年には避難解除(一部地域を除く)となり、現在までに約3割の住民が帰還し営農活動の再開が進んでいます。11の行政区からなる村の帰村人口は2020年11月現在で326人、これに対し村内で飼養されている牛の数は肉牛・乳牛合わせて456頭と、人口より牛が多い、古くから畜産の盛んな地域です。市場でも常に高値で取引される葛尾村の和牛は、村の復興の主軸となっています。代々続く畜産業を受け継ぎ未来につなげる、村内最年少の和牛繁殖農家の取り組みを紹介します。
目次
豊富な水資源と地理的条件が育んだ畜産のまち・葛尾村
中山間地域にある葛尾村は、平地が少ないという地理的な特性があります。傾斜地が多く大型機械を導入できるような大規模な水田は整備できませんが、畜産に不可欠な「土地」があり、また山地であることから豊富で新鮮な「水資源」に恵まれている地域です。
葛尾村の畜産の歴史や営農再開状況を語る『葛尾村 地域振興課』の松本勝好さん
「この辺りは昔から、水稲と1〜2頭の牛の繁殖を組み合わせる農家がほとんどでした。東京電力福島第一原発事故前、村内には95軒の繁殖農家があり約300頭を飼養、肥育農家も9軒あり約3,300頭を育てていました。1,200頭規模で養豚も行われており、畜産の盛んな村でした。そのため、和牛の繁殖や肥育の経験者が多く、若手や新規就農者の育成を支える基盤になっています」と、『葛尾村 地域振興課』の松本勝好(まつもと・かつよし)主任主査は話します。
「牛糞堆肥を田んぼにまき、稲わらを餌として畜産に還元する『耕畜連携』も、昔から自然とできていました」と松本さんは話を続けます。「水稲×牛の繁殖」という独自の営農スタイルで、古くから循環型の農業を実践してきた地域です。
東京電力福島第一原発事故により一時は全村避難となりましたが2020年11月現在、和牛の繁殖は16農家で186頭、肥育は1農家で120頭を飼養するまでに回復。酪農牛は1農家で150頭、めん羊は2農家で56頭、ヤギは1農家で20頭、養鶏は2農家で15万6千羽など、避難指示解除(一部地域を除く)から4年が経ち、村の畜産業の復興は着々と進んでいます。そんな葛尾村の畜産業を牽引し将来を期待される最年少の和牛繁殖農家をご紹介します。
葛尾村最年少の畜産農家 下枝宏通さん
葛尾村の最年少和牛繁殖農家として将来を期待される下枝宏通さん
黒毛和牛の繁殖農家として2017年3月に新規就農した、葛尾村夏湯(なつゆ)地区の下枝宏通(したえだ・ひろみち)さんは28歳。村で最年少の畜産農家ではありますが、2018年には「第3回JA福島さくら和牛育成管理共進会」で最優秀賞を受賞するなど、その実力は高く評価され葛尾村の畜産業を牽引する存在として活躍しています。
下枝さんは祖父、母と代々続く繁殖農家に生まれ牛と共生する環境で育ちました。就農の経緯を伺うと「最初は家業である畜産を継ぐ予定ではなかった」といいます。一般企業への就職を考え工業高校に進学しましたが、3年生の時に東京電力福島第一原発事故が発生。下枝さん家族は三春町へ、育てていた牛は隣接する田村市へ避難しました。
避難生活が続くなか、営農再開を目指す祖父と行動を共にするうちに、祖父の友人をはじめ畜産関係の方とのつながりができていきました。2016年6月に避難指示が解除され、新たな牛舎建設など営農再開の準備を進めるなか、誰よりも再開を望んでいた祖父が他界。
「祖父は以前から、畜産は手につく仕事だと言っていました。その言葉に、『誰でもできる仕事より、自分にしかできない仕事をしたい』という気持ちが段々と膨らんできました」と、当時の心境を振り返ります。祖父の友人の勧めもありましたが、何よりも志半ばで旅立った祖父のためにも「やってみよう!」と、畜産家の道を歩むことを下枝さんは決意します。
こうして、下枝さんは母の初恵(はつえ)さんが育てていた和牛4頭から最年少和牛繁殖農家としてのスタートを切ります。1年目は8頭、2年目は12頭、3年目は16頭、そして就農4年目となる今年(2020年)には17頭と徐々に飼養頭数を増やしてきました。
下枝さんが飼養する繁殖牛。とても人懐っこく近付くと寄ってきます
「牛の購入費用や牛舎の修繕費用に、村の補助金を利用できたので助かりました。仕事にも慣れてきたので今後は、来年(2021年)20頭、5年後(2025年)には30頭まで飼養頭数を増やしていきたいです。また出荷することで売上につながりますので、これからは経営面も面白くなりそうです」と、今後の目標を話す下枝さんは今年、手塩にかけて育てた5頭を福島家畜市場へ出荷しました。
福島県家畜市場での牛1頭当たりの平均取引額は、60万円代後半〜70万円。ところが下枝さんが育てた牛は平均約80万円、中には100万円近い高値で取引されました。その秘訣を尋ねると、「朝晩の餌の時間にブラッシングをしたり、1~2時間ごとに見回りながら話しかけたりして、手間と愛情をかけて育てています。1人あたり15頭~20頭の牛が、行き届いた管理をするためにベストの頭数だと教えられました」と、笑顔で話してくれました。
「人間を全然警戒しない特別に人懐っこい子牛は良く育つんですかね?今までやってきて、そういう牛は大きく育ち市場評価の高い肉牛に育っているんですよ」。
ストレスを減らし、伸び伸びと心地よく過ごせる牛ファーストの環境づくりにも力を入れています。
(葛尾村では「素牛導入事業」により1頭当たり50万円の購入補助を行っています)
新築した子牛用の牛舎。葛尾村の鉄工業者も畜産の知識があるので使いやすい牛舎を造ってくれるそうです
若者の情報力で畜産業の効率化を推進
下枝さんは福島県内全域の20代~40代の若手畜産農家から構成される『若人の会』に所属し、同年代の畜産農家との交流にも積極的です。新型コロナウイルス感染症が拡大する前は、同村近隣で開催される研修会や懇親会にも参加していましたが、感染拡大の影響を受け研修会や懇親会の開催は中止を余儀なくされました。
しかし、下枝さんはSNSを積極的に活用することで福島県内の同世代の畜産関係者のほか、素牛を購入した宮崎県や鹿児島県、兵庫県など、全国各地の畜産仲間へと交流の輪を広げています。
「同世代の仲間は情報が新しく、そしてその情報が早く手に入るんです。仲間の情報をもとに、牛舎に10台のカメラを設置しました」と下枝さん。ホコリや寒さに強い機種や低価格で購入する方法などの情報を交換し、相場の1/10程度の低予算で導入することができました。自宅からパソコンやスマホで牛舎の状況が把握でき、夜間の見回りやデータ管理の効率がアップしました。
村内初の導入となった牛舎の消毒用煙霧機も知人のアドバイスがきっかけでした。ハエ、アブなどの発生を防ぎ、病気の予防やストレスの低減に役立っています。さらに、下枝さんは来年(2021年)、分娩前の牛の体温低下を知らせる機材を導入予定とのこと。これにより分娩事故を減らし、夜間の見回りの負担も軽減できると、積極的にICTを導入することで作業効率を上げるだけでなく飼養環境の整備にも取り組んでいます。
下枝さんに近寄る子牛。警戒しない様子からも下枝さんが愛情を注いでいることがうかがえます
今売れている牛肉の情報を血統選びの参考にするためにお肉屋さんとも情報を交換しているという下枝さん。全国の仲間とのネットワークと地域の先輩農家のノウハウで葛尾村の畜産業に新たなスタイルを築き上げようと日々、研鑽を積んでいます。
葛尾村では現在、村内3カ所に和牛繁殖施設を整備しています。1カ所当たり324頭、3カ所で約1000頭を飼育できる牛舎を建設し、繁殖と肥育を一貫して行える体制を整えます。2022年春の稼働を目指し、本格的な農畜産業の復興を後押しする計画となっています。
「村の畜産業を継承しリードしてくれる、下枝さんのような若手に期待しています」と、松本さんは話します。
自然豊かな土地があり、水資源に恵まれ、ノウハウを持つ畜産経験者が豊富な葛尾村は行政と畜産農家が一丸となり、「畜産のまち・葛尾村」を盛り上げています。
■お問合せ先■
〒979-1602
福島県双葉郡葛尾村大字落合字落合16
福島県葛尾村役場 地域振興課 地域づくり推進係
Tel:0240-29-2113
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