【福島県広野町】農業は一生の勉強。生産者と行政がタッグを組み、 学びの楽しさを次世代へ
自然相手の農業はその年々で作業内容や工程が変わることがあります。そのため、農業経験がない新規就農者が農作物を育て、安定した収益を確保するためには、農業の基礎を学ぶことが重要。そんな未来のファーマに学びの場を提供し、支援しているのが福島県広野町です。町の魅力を紹介すると共に、農業を心から楽しむベテラン生産者の声をお届けします。
目次
ふるさとの大地を守り続ける、ベテラン生産者の思い
年間平均気温が14・3度(2018年、気象庁調べ)の温暖な気候から、「東北に春を告げるまち」と称される福島県広野町。その恵まれた風土が育むのは特別栽培のコシヒカリ、北限のミカンとして知られる「温州ミカン」などの農産物のほか、畜産では色鮮やかで良質の霜降りをもつ肉用和牛が飼育されています。
矢内豊さん
そんな豊かな大地で水稲栽培を営んでいる矢内豊さんは、家業である農家を15歳で継いで以来、農業を生業に生活を送っています。現在のほ場は約17haと、大規模栽培を手掛けている矢内さんですが、もともとは約2haのほ場で水稲栽培を行っていました。
ではなぜ、広大なほ場を管理するようになったのでしょう。そこには2011年3月11 日の東日本大震災における原発事故が大きく関係していました。
「震災後、風評被害により離農する仲間が後を立ちませんでした。それでも農地は生かしたいという思いを受けているうちに、管理するほ場が増えていきました」。
今でこそのどかな田園風景が広がる広野町ですが、原発事故により、多くの町民が避難を余儀なくされました。管理できなくなった農地は荒れ、再開しようにも風評によってその道はいっそう厳しくなりました。さらに、高齢による労働力不足が重なり、離農する生産者が続出しました。しかし、先祖代々大切にしてきた土地を守りたい、信頼のおける人に農地を託したい、という所有者の思いをくみ、矢内さんは現在、計20軒もの農家のほ場を守り続けています。
「農業は知識や経験がもちろん大切ですが、土地に愛情がなければ良い作物は育ちません。この地域は古くから助け合いの精神で農業を営んできました。自分が元気なうちは出来る限り農地を守っていきたいと思っています」。
田植えや稲刈りの時期は家族で作業を行うものの、草刈りや水管理は基本的に矢内さん1人で行っています。任せられたほ場は点在するものが多く、作業効率は決して良いとは言えないのが現状です。その解決のカギとなるのが、行政によるほ場整備事業と農地の集積です。
ほ場整備による作業効率化に期待
高齢化や担い手不足による労働力の低下を補うには、ほ場の集積が有効です。そこで福島県では地域の人々の意向を踏まえ、区画を大きく整形し、用水路、排水路、農道を再整備、再配置することで効率的な農作業と生産性の高いほ場を造成するほ場整備事業(経営体育成基盤整備事業)を実施しました。整備された大規模ほ場で効率的な農業を展開しつつ、優良農地を適切に維持・管理することで、農業の多面的機能を発揮することが可能になります。
展望を語る矢内さん
「高齢化や労働力不足は今後ますます深刻化するため、ほ場整備はもちろん、ドローンを使った農薬散布なども積極的に取り入れていく必要があります」。そう話す矢内さんは、ほ場整備が完了したタイミングで息子さんに代を譲る準備を始めているとのことです。66歳を迎えた矢内さんは一線を退くものの、すでに新たな目標「ハウスブドウ栽培」に向けて、勉強に勤しんでいるというのだから驚きです。そのアグレッシブな姿勢は、どこからやってくるのでしょう。
「農業の答えは1つではありません。毎年答えが変わるとも言えます。農業は一生の勉強。学んだことを栽培技術に生かし、実りの季節を無事に迎えることができたらこれほど嬉しいことはありません。私たち生産者は、そんな農業の魅力や楽しさを、伝えていく義務があります」。
矢内さんは、今後も行政と連携を図りながら、担い手育成にも尽力していきたいと抱負を語ってくださいました。
奨学金で農業を学ぶ意欲をサポート!
広野町では、農業振興と農業後継者を確保するため、その修学に必要な資金(奨学金)を貸付けし、農業経営の安定と優れた農業担い手の育成を図る「広野町農業次世代人材育成奨学金貸付条例」を制定しました。この制度は、将来広野町で就農し、引き続き5年間農業に基幹的に従事するなどした場合、奨学金返還の債務が免除されるといったものです。
「農業は経験や感覚で語られることが多々あり、後継者が途絶えるとせっかくの技術が継承されないという問題があります。教育機関で基礎をしっかり身につけることで多角的に農業を学ぶことができ、栽培技術を確立することができます」と、広野町産業振興課の根元樹さんは期待を寄せます。
町の支援制度について説明する根本さん
ほ場整備は農地の集積というメリットがあるものの、耕作面積が拡大されるため、高齢の生産者にとっては負担になることが懸念されます。そのためにも、新たな担い手の育成は急務と根元さんは言葉を続けます。
「復興への道を力強く歩む広野町は、学ぶ楽しさと自然と共に生きる喜びを体感できるところ。気候と同じように人柄も温かい町が、新たな仲間を待っています」。
童謡「とんぼのめがね」が生まれた広野町には、歌の世界観そのままの日本の原風景が今も残されています。山は五社山、北迫川・浅見川・折木川の3つの川が流れる自然豊かな町で、新たな一歩を踏み出してみませんか。
なお、広野町は2019年12月7日、仙台市で開催される『マイナビ就農FEST』に参加します。ぜひお気軽にお立ち寄りください。
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■問い合わせ
広野町産業振興課
住所:福島県双葉郡広野町大字下北迫字苗代替35
電話:0240-27-4163
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