震災を乗り越えた先に、広がる可能性。浪江町の若者が描く、挑戦の軌跡

2017年3月に避難指示が一部解除され、新たなスタートを切った浪江町。復興の半ばではあるものの、帰還を果たした町民だけでなく、町外から移り住んだ新たな仲間も加わって、浪江町の農業シーンは盛り上がりを見せています。この町で、ひときわ大きな志を胸に、奮闘する若者を取材し、挑戦の軌跡をたどりました。

目次

震災をきっかけに浪江で生きると決意。3足のわらじで挑む地域おこし

和泉 亘さん

白河市出身の和泉亘さんが、浪江町での生活を決めたのは東日本大震災がきっかけです。当時勤務していたNPO法人での被災者支援に従事する中で、浪江町の人々と初めてかかわりを持ちました。「ここでの交流が非常に楽しく、住民の方々と接することでパワーが湧いてきました」と、和泉さんは当時を回顧します。

浪江町は、2017年3月に町の一部の避難指示が解除されましたが、さまざまな事情から、本当は戻りたいけど、浪江町に戻れない人が多いという現実を目の当たりにします。

浪江の人たちのために、何かできることはないかと思い立った和泉さんは、毎週末、NPO法人での仕事の合間に浪江町を訪れてボランティアに参加しました。ここでの活動を通して、住民が集まって交流できる場所がないことに気が付きました。

「誰でも気軽に集まってお茶が飲めるような寄合所のようなものが必要だ」と、和泉さんは、震災前には下宿として使われていた『青田荘』を借り受け、集会所兼ゲストハウス『あおた荘』を立ち上げました。

任意団体『なみとも』設立。若者と町民をつなぎ、移住もプロデュース

2018年2月にNPO法人を退職し、浪江町へ移住した和泉さん。以来、『あおた荘』を拠点としながら浪江町の地域作りのため、積極果敢に活動しています。自身と同じく浪江町へ移り住んだ仲間と共に、任意団体『なみとも』を立ち上げ、県内外の若者と地域住民との交流を図るイベントを実施。地域の小中学生にはエゴマの種まきから収穫までを行う食育活動も展開するなど、地域を盛り上げるべく、多方面で活躍を見せています。

自ら手掛ける活動について語る、和泉さん

町のビッグイベント・十日市祭では、浪江産コシヒカリを販売するために、県内外の学生による販促活動『浪江す米(まい)るプロジェクト』を主導し、米袋デザインやパンフレットの作成をサポートしました。また、流しそうめんや夏祭りをはじめ、月2回ペースでイベントを企画実施し、昨年1年間だけで約600人もの交流人口を生み出したそうです。

この他、浪江町への将来的な移住を検討している方の窓口にもなり、これまで、合計3人の移住のきっかけをプロデュースしました。若い力で活気ある地域を目指して、確かな貢献を果たしています。

ずっと浪江に住み続けるために、生業としての農業へのチャレンジを決意

ほ場一面に広がる育苗中のエゴマ

多方面で活躍する和泉さんですが、永続的に町で暮らすための生業として挑み始めたのが農業です。農業は浪江町の欠かせない魅力の1つとして考えていた和泉さん。

もともと、『なみとも』の活動の一環として『なみとも農園』を設けていましたが、当初はあくまで町を訪れた若者が農業体験できる場という意味合いが強いものでした。

生業としての農業に本格的にチャレンジしたのは、浪江町と福島市で大規模にエゴマ等の生産を行っている『石井農園』の石井絹江さんと出会ったことがきっかけです。2018年の7月ごろから、エゴマ生産や加工作業のノウハウを学んでいったそうです。

「正直なところ、最初は浪江で農家として食べていくのは難しいのではないかと思いました。悩みに悩んだ末に思い至った結論が、悩んでいても分からないのでやってみよう」と、和泉さん。

浪江町のサポートも得て、就農手続きの準備も進めており、2020年オープン予定の道の駅を盛り上げるため、エゴマの加工商品の開発も進めています。和泉さんは「将来的には農業法人化も視野に入れて、この浪江町で農業で食べていける仕組みを作っていきたいです」と話します。
ゲストハウスの管理、イベント展開、そして農業。3足のわらじを履いて歩む、和泉さんの活動は始まったばかりです。

町も全力を挙げ、就農者を支援。自分が思い描く農業に思う存分チャレンジ

浪江町の真の復興には、農業が不可欠であると考える行政では、就農者を後方から強力にサポートする体制を整備。被災12市町村で、就農者が必要な資金の最大3/4の補助が受けられる補助金をはじめ、町でも独自に新規就農者に対して、家賃補助、収入補てんが受けられる補助金制度を策定して、意欲溢れる人が、憂いなく就農できる仕組みも整えました。

町役場の大浦龍爾さんは「浪江町は、気候も温暖で農業に適しています。比較的、農地の賃借や取得も行いやすいですし、栽培指導をしてくれる先輩就農者もいますし、大きい補助を受けることも可能ですので、真剣に就農を考える人にとってはチャレンジしやすい環境とも言えるでしょう」と語気を強めます。

「もちろん、不利な面や課題も多いですが、覚悟を持って飛び込んできてくれれば、町も全力でバックアップします」。熱く語る大浦さんの表情が、浪江町の本気度を物語っていました。

大浦さん(右)

震災後に高値で取引される花を生産し始めた第一人者を中心に花卉研究会が発足して、新たな品目に取り組む人も現れるなど、確実に盛り上がりを増している同町。農業に強い気持ちを持って挑みたい人にとっては、絶好の挑戦の舞台となるのではないでしょうか。

なお、浪江町は8月4日に仙台で開催される『マイナビ就農FEST』に参加します。ぜひお気軽にお立ち寄りください。
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【問い合わせ】
浪江町役場 
農林水産課 農政係
福島県双葉郡浪江町大字幾世橋字六反田7-2
TEL:0240-23-5706
FAX:0240-23-5712

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